七月十日 水曜日

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 それがどうしてそうなったのか、いつの間にか立場が逆転して母猫が子猫の世話をするように、静は直人を構い倒すようになったのだけれど。 「すぐにご飯にするわよ」  追憶にふけっていた間に、話は終わったと思われたらしい。視線を上げると、静を誘うことを諦めた母が台所へ戻っていくところだった。  言われてみれば、食欲をそそる良い匂いが漂っている。さっきアイスを食べたばかりだが、まだまだお腹はぺこぺこだ。  だけどどうしてもその前にシャワーが浴びたい。荷物を廊下に放り出して風呂場へ向かうと、後ろで母親がギャーギャー騒いでいた。  知ったことか。  騒がしい母の声を無視して脱衣所のドアをくぐると、ほんの少しだけ溜飲が下りた。  昼食を食べてから自室に戻ると、やはり当たり前のように部屋着に着替えた静がいた。しかも今日は勝手に音楽をかけた上に直人のベッドに寝転がって、持ち込んだらしい本を読んでいる。あまりに静が堂々としているので、もはや直人が間違って静の部屋の扉を開いてしまったような感すらある。 「ちゃんとエアコンつけておいてあげましたよ」 「えーと、ありがとう?」
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