七月十日 水曜日

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 この場合、直人がお礼を言わなければいけない立場だろうか。  しかし静は当然のように鷹揚にうなずいてから、再び紙面に目を戻した。納得いかない。 「お前、いいかげんテスト勉強しろよ」 「普段真面目にやってますから、わざわざテスト期間だけ勉強する必要なんかないです」  そんなことを言いながら読んでいる本は、多分ドイツ語で書かれている。本人にその気はないのだろうが嫌味がすぎて、癪に障る。  そもそも静はおそらく勉強がものすごく出来るので、直人と同じ高校でちんたら授業を受けていることそのものが謎だったりする。 「……お前、前から不思議だったんだけど、何でうちの高校受験したわけ?」 「何ででしょうね。自分でも納得できないです」  寝そべったまま恨めしげな目を向けられ、直人は慌てた。 「何だよ。俺のせいだって言いたいのか? 俺といっしょのとこにして、なんて頼んだ覚えはないぞ!」 「そうですね、小学生のときはお願いしてきたのにね。かわいくなくなりましたよね」 「うるさい! もうっ、そのときのことは忘れてくれよ」 「いやです。俺がどれだけ苦労したか、わかってます?」
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