七月十日 水曜日

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 もともと静は日本に帰国した後、近場のインターナショナルスクールへ通う予定だった。だけど、どうせなら同じ学校に通おうよ! と何気なく声をかけたのは確かに直人の方だった。だから少し考えるそぶりを見せた静が、にっこり笑って承諾してくれたとき、単純にうれしかった。  直人は知らなかったのだ。実は静が日本語を、全く話せなかったなんて。  トリリンガルであるのは嘘ではなかった。静は三ヶ国語を実に流暢に扱った。ドイツ語と中国語と、彼にとっては母国語である、英語を。  どうりで日本語で話し掛けても絶対に返事をしてくれないはずだ。いざとなったら日本語が通じるだろうという下心もあって、最初冷たかった静にもめげず付きまとったのに。勝手な話だが、ちょっとだまされたような気分になった。  帰国後、願書が無事通り、学校へ面接に行った際に、静が日本語を話せないことを初めて知った。よくぞ静の両親は、公立校へ通うことを許可したものだ。
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