七月十日 水曜日

36/40
前へ
/165ページ
次へ
 胸の奥がくすぐったくて、落ち着かない。なのに離れたくないという、この気持ちは。  この気持ちの名前は。  自覚した途端、自分が静に向けていた想いが何なのかに気がついて、顔から血の気が引いた。  頭が良くて、いじわるで、だけど誰よりやさしかった、静。困っていることがあったらすぐに助けてくれて、直人がなりたいと思っている、理想像そのものの幼馴染みのことが。  ずっと、好きだったなんて。 「い、いや、イケメンはこんな間近で見てもイケメンだからずるいなー、って思って……」  気付かれたくない。  とっさに顔を背けてごまかす。今までどうして平気だったんだろう。横たわった静との距離が近すぎて、勝手に唇が震えてしまう。  見られたくなくて、手の平で口元を覆う。だって、静は直人のことが嫌いなのだ。いや、嫌いとまでは言わないのかもしれないけど、決して好きではないだろう。静が本当に好きなひとには、やさしくて甲斐甲斐しい男であることを知っている。  自分の思考回路に自分で勝手に傷ついて、泣いてしまいそうだ。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加