七月十日 水曜日

37/40
前へ
/165ページ
次へ
 視界いっぱいに広がる涙が零れ落ちてしまいそうなのを、必死に堪える。目をそらしていたからはっきりとは分からないけれど、静は険しい顔になって立ち上がったようだった。 「あんたさ、俺のこと格好いいだのイケメンだのしょっちゅう言うけど、ほんとはそんなことひとつも思ってないだろ」  そんなことない。  出会ったときからずっと格好いいと思っていた。今だって心からそう思っている。  だけど、今、それを口にしてしまうと、卑しい気持ちまで漏れ出てしまいそうで、直人は口を閉ざしたまま必死にかぶりを振った。  そんな直人を見下ろしたまま、静はしばらく動かなかった。  身を硬くして黙っていると、やがて静は直人に背を向けた。 「バカにすんな」  いつになく乾いた声で吐き捨てて、部屋を出て行ってしまう。  ぴしゃり、と窓のしまる音が聞こえた。その途端、ぽろんと涙がひとつ、零れ落ちてしまった。  幼馴染みとキスをして、そのひとが好きだったことを自覚した直後に、怒らせてしまった。  好きだなんて、自覚しない方が良かった。静は直人のことが好きどころか、友達とすら思っているか怪しい。 「……どうしよう」
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加