七月九日 火曜日

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「なにそれ理不尽! おれが何したっていうんだよ!」  ぎゃんぎゃんわめく直人に構わず、静は着ていた部屋着を脱ぎ始めた。 「それよりそろそろ準備したいんですけど。先輩はいつまでそうしてるつもりですか?」  無駄に均整の取れた身体を見せ付けるようにして振り返られると、遠いこどものころに捨ててきたはずのコンプレックスがむくむくと頭をもたげる。  無言でカーテンを閉めると、楽しそうな笑い声が追いかけてきて、余計に腹が立った。  ふとベッドの上を見ると、自分を起こしにきたはずのウィルがクロと絡まりあって幸せそうに眠っていた。  平和な光景に力が抜けそうになるが、あまりもたもたしてはいられない。  急いで朝食を済ませ、家を出ると制服に着替えた静が待っていた。 「あれ? 遠野、何してるの?」  夏の初めの焼け付くような日差しの下、玄関先に佇む静はさすがに暑そうで、制服のシャツを第二ボタンまで開けている。  背後に広がる雲ひとつない青空とあいまって、ただ突っ立っているだけで妙に絵になってしまうのだから、イケメンは罪深い。 「先輩の自転車壊れたんだって? 最近暑くなってきたし、俺もバスで行こうと思って」
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