七月十一日 木曜日

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 静の父はよく研究室に泊り込んでいるが、直人の父が夜間家を空けることはほとんどない。今朝もほかほかと湯気を立てるごはんの前に座って、おとなしく新聞を読んでいる。  母と静はまだ何かすることがあるのか、台所でにぎやかに作業をしていたが、直人の姿を認めると、エプロンを外してテーブルに着いた。  ちなみに、なぜか橋本家の台所に静のエプロンが常備してあることについて、疑問を持ってはいけない。 「いただきまーす」  手を合わせて父に続いて唱和し、思い思いに食事を始める。  カリッと焦げ目のついたベーコンに、瑞々しいサラダ。橋本家の朝食には年中温かいご飯と味噌汁がつく。今日はそれに目玉焼きとヨーグルトまで並んでいて、お客さまがいる分少しだけ豪勢だ。  食欲をそそる彩り豊かな朝食に感謝しつつ、もりもり食べる。直人は背丈は少々小さいが、食べる量は静と変わらない。  茶碗の上で目玉焼きの黄身をとろりと割って、白米といっしょに口に運ぶ。  口に広がる定番の味に、落ちていた気分がほんの少し浮上した。 「そういえば、天気予報見たか?」 「えぇ、土日晴れに変わったわね。このまま晴れてくれたらいいけど」
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