七月十一日 木曜日

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 父と母は楽しげに週末の予定を話している。不審に思われない程度に声を落として、直人は静にこっそりと耳打ちした。 「あのさ、お前昨日の夜あの後おれの部屋に来た?」 「いいえ、どうしてですか?」  昨夜ウィルになっていたとき、静は直人の部屋にいた。だが今目の前に座る静が嘘をついているとも思えないし、何より静が……あんなことをするとは、考えにくい。 「……何でもない」  今日も空は青く晴れ渡り、家族仲はいいし、食卓に並ぶご飯は美味しい。猫たちが行き来するため窓を開けっ放しにしていることが多い自室と違い、エアコンの効いたダイニングは快適だ。  けれど、二晩続けてウィルになってしまったという出来事は、確実に直人の神経をすり減らしていた。  今のところウィルになったからといって特別何か被害があったわけじゃない。  だけど、これはいつまで続くんだろう。  それに、どうして他の猫にはならず、ウィルになるんだろう。飼い猫、という意味では、まだクロの方が直人にとって近しいのに。直人がなってしまうのは今のところウィルだけだった。  どうして急に直人はウィルになるようになったんだろう。
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