七月十一日 木曜日

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 かばんを取りに自室へ戻ろうと廊下に出たところで、静に呼び止められた。高い背を折り曲げるようにしてドアをくぐり、後ろ手にドアを閉める。  静は腕を組んでしばし逡巡していたが、軽く息を吐いてから切り出した。 「あの……先輩、まさか昨日もあの後ウィルになったんですか?」  長身の幼馴染みは眉を物思わしげに顰め、直人を見つめている。その真摯な瞳は、とてもからかっているようにも嘘をついているようにも見えない。  どう答えるべきかちょっと迷ったけど、結局正直に答えることにした。 「そうだよ。ウィルになったとき、お前はおれの部屋に来ていた」  直人の言葉を聞いた静は、首を振って困惑を露にした。 「俺は、あの後先輩の部屋に行っていません」 「分かってるよ」  ウィルになっている間に見た光景は、あまりにも現実的では無さ過ぎる。  体感としては依然あれは事実だと訴えていたが、もはや直人自身、分からなくなってしまった。 「正直おれも自信なくなってきた」 「何でですか?」  項垂れて告げると、不思議そうに静は目を瞬かせる。 「それは、その……」  暗がりの中眠る直人を見つめる静の、穏やかなまなざし。
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