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かばんを取りに自室へ戻ろうと廊下に出たところで、静に呼び止められた。高い背を折り曲げるようにしてドアをくぐり、後ろ手にドアを閉める。
静は腕を組んでしばし逡巡していたが、軽く息を吐いてから切り出した。
「あの……先輩、まさか昨日もあの後ウィルになったんですか?」
長身の幼馴染みは眉を物思わしげに顰め、直人を見つめている。その真摯な瞳は、とてもからかっているようにも嘘をついているようにも見えない。
どう答えるべきかちょっと迷ったけど、結局正直に答えることにした。
「そうだよ。ウィルになったとき、お前はおれの部屋に来ていた」
直人の言葉を聞いた静は、首を振って困惑を露にした。
「俺は、あの後先輩の部屋に行っていません」
「分かってるよ」
ウィルになっている間に見た光景は、あまりにも現実的では無さ過ぎる。
体感としては依然あれは事実だと訴えていたが、もはや直人自身、分からなくなってしまった。
「正直おれも自信なくなってきた」
「何でですか?」
項垂れて告げると、不思議そうに静は目を瞬かせる。
「それは、その……」
暗がりの中眠る直人を見つめる静の、穏やかなまなざし。
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