七月十一日 木曜日

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 長身を折り曲げるようにして覆いかぶさって、それから――……。  目を閉じた静の横顔を思い出すと、頭が沸騰したように茹で上がってしまった。  よくよく考えてみたら、自分がキスをしようとしているところなんて、普通見ることはない。今まで一応、中学生のときにひとり、彼女がいたことはあるけれど。その子とは特に進展せず、ままごとみたいな軽い関係で終わった。間違っても、自分のキスしているすがたをみるような付き合いではない。  猫の瞳のおかげか、必要以上にクリアに見えてしまった刺激的な光景が、目に焼きついて離れない。  どうにか誤魔化したいけど、真っ赤になってしまった頬から熱が引いてくれない。  変に思われないだろうかと、ちらりと静を盗み見る。いつもだったらこういう、気付いて欲しくないな、ってことをすかさず突っ込んでくる目ざとい幼馴染みは、意外なことに今日は何も言ってこない。  思わずまじまじと見つめ返す。すると、直人以上に、静の様子がおかしくなった。
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