七月十一日 木曜日

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 直人の目線を避けるように、長い首を折り曲げるようにして足元を見ている。向かい合う距離すら、いつもよりずっと離れていることに気付いたのはそのときだった。 「何だよ」 「何でもありません」  頑なな態度には覚えがあった。幼いころ、ずーっと直人にやさしかった静が、あるときを境に急によそよそしくなった時期があった。あのときに、そっくりだ。  またあのときみたいに、訳もわからず距離をとられるなんて、絶対に嫌だ。 「おい、静。またおれのこと避けるつもりか」  自分より頭半分高い少年を見上げて問いただすと、静は息を飲んで後ずさろうとした。しかしもともと背中がドアにくっついていたので、身じろぐだけで終わる。  さらに一歩近づいて身体が触れ合いそうな位置にまで迫り、切れ長の瞳をじっと覗き込んだ。 「そんなの、絶対許さないからな。お前がおれを避けるなら、今度はおれがお前にまとわりついてやる」  狭い廊下で立ちすくんだ静は、あまり見たことがない顔になった。いつもの愛想のない無表情じゃなくて、切なく苦しそうに顰められた眉。 「どうして……」
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