七月十一日 木曜日

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「優? 聞いてる?」  固まってしまった友人をそっと揺すってみると、ようやく我に返ったようだ。 「は!? ネコ? ネコって、猫のことだよね? はぁ? 何言ってんの!?」  ようやく反応したかと思ったら、優はどこからどう見たってびっくりしている。直人だって、こんなバカみたいなこと、本当に悩んでいるのでなければ、口にしたくはなかった。  自分でも本当に優に打ち明けるかどうか決めかねていたくらいだったのに。優の先ほどの態度は何だったんだろう。 「驚かないんじゃなかった?」  半ばだまされたような気分でじろりと優を見やると、友人は頭を掻きながら目を泳がせた。 「いやだって、てっきり遠野の話かと」 「何でここで遠野が出て来るんだよ」  眉を顰めて尋ねると、優はう、と言葉に詰まった。視線を狭い車内のあちこちにさ迷わせながら言い訳を探している。 「いや、でも絶対遠野も無関係ではないでしょう、ね?」  あげく根拠のない自信を持って断言してきたそれが、案外的を射ていたので、今度は直人が言葉に詰まった。 「…………無関係では、ない」
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