七月十一日 木曜日

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「直人の言うことを疑うわけじゃないんだけど、遠野も嘘は言っていない気がする」 「何でそんなこと分かるんだよ」  こんな突飛な話を笑い飛ばさずに聞いてくれるだけでも、友人に恵まれているとは思う。けれど、当然のように静の意見の方を優先されれば面白くはない。直人と優は高校一年生のときから、まるっと一年以上の付き合いになるが、静はつい三ヶ月前に入部してきた新入部員だ。  なぜ静の言うことの方が信憑性があるというのか、へそを曲げた直人をなだめるように、優は直人の膝を叩いた。 「だから、直人の言うことを疑っているわけじゃないって。ただ、もし直人が言った通りのことが遠野に起こっていたら、直人が猫になったってことも遠野にとって事実になる。もし直人が猫になっちゃったら、遠野はもっと血相を変えて慌てふためくはずだよ。僕、昨日遠野にちらっと会ったけど、普通だったじゃん。もし直人が猫になっちゃったら、あんな普段通り飄々とはしてないと思うな」  断言して、自分でうんうんとうなずいている。  どうやら優は直人と静の友情をえらく過信しているらしい。直人はため息といっしょに考えたくなかった本音を吐き出した。
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