七月十一日 木曜日

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「……あいつおれのこと嫌いだし、おれが困ってることを腹の底では喜んでいるのかも」  言ってからしばらく待ってみるも、優はなにも言ってこない。不思議に思って真横に座る友人に目をやると、優は目じりを下げて苦笑していた。 「あのさ、前々から不思議だったんだけど、どうして遠野が直人のこと嫌ってる、って思い込んでるの? 僕から見たら、遠野は直人に懐いているようにしか見えないけど」 「あいつがおれに、懐いてる?」 「そりゃもう。ある意味排他的なくらいべったりと」  窓側に座る優は、膝に乗せたかばんを抱きかかえ微笑んでいる。夏の日差しにくっきりと照らされた笑顔が眩しくて、直人は目を細めた。  もし本当にそうだったとしたら、どんなによかっただろう。だけど、それは誤解だ。優は、昔の静を知らないからそう思うのだ。 「うーん、優にはおれたちがイギリスにいたころからの友達だった話はしたよな? その頃の静って、今からは想像も出来ないくらい、おれにやさしかったんだよ」  バスはそろそろ直人たちの通う高校に近づいてきた。制服姿の生徒たちに視線を向けつつ、直人はしぶしぶ口を開いた。
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