七月十一日 木曜日

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 やさしかったころの静を思い出すと、何だかひどく恥ずかしい。あの頃の彼は、ちょっと過保護なくらい直人のことを大切にしてくれた。異国の習慣に困惑することがあれば率先して教えてくれたし、不安なときは何も言わずにそばにいてくれた。  そんな静は文句なく格好よくて、同性の直人にも、こんな男になりたいと思わせるには十分魅力的だった。それがいつの間にか恋に変わっていたなんて、昨日まで直人自身、気付いていなかったけど。 「例えば?」  しかし直人の感傷など知る由もない優は、ぐいぐい質問を重ねてくる。仕方なく思いつく限りのエピソードを言おうと思ったが、口に出すにはちょっとためらわれることばかりだ。  それこそ、公衆のトイレに入るときは、危ないから、と必ずついて来てくれたり、人ごみの中を歩くときは、当然のように手を繋いでくれたり。当時は同級生だったからあまり気にならなかったけど、下級生に世話を焼かれていたのだと思うと、結構恥ずかしい。 「えぇと……おれが困っていたら、すっ飛んできて手を貸してくれたし、泣いてるときは、泣き止むまでずっとそばにいてくれた。どんな些細な口約束も、全部叶えてくれて……」
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