七月十一日 木曜日

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 一応先輩なんだから、そう簡単にひとを動かさないで欲しい。  そう文句を言ってやろうと見上げた先にあった静がいつも以上に不機嫌そうだったので、言いかけた言葉を慌てて飲み込んだ。……我ながらちょっと情けない。 「何でこいつを誘うんですか」  いかにもしぶしぶ、といった様子でこちらに向かって歩いてきた篠塚を、顎でさしつつ静が言う。普段の静はどちらかというと育ちがよさそうな雰囲気なのに、こういう態度になると急にガラが悪くなるからびびる。 「だって、篠塚といるときの遠野って、比較的おれに対する当たりがやわらかい気がするし」  それでも八年来培ってきた幼馴染みというポジションは伊達じゃない。圧力をかけてくる静に負けずに何とか踏みとどまって伝えると、篠塚は眉間にしわを寄せて尋ねてきた。 「先輩それ理由分かって言ってます?」 「もちろん」  肩を並べる長身の後輩ふたりを交互に眺めつつ、直人は自信を持って頷いた。  静くらい背が高いと、何もしていなくても威圧感がある。その上、お世辞にも彼は愛想がいいと言えるタイプではない。  そのため、普段の静は無愛想に見えて、実は周囲にかなり気を遣っている。
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