ルーティン

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 朝台所に行くと母さんの様子がいつもと違っていた。  【トントントントン】  母さんは何も置いていないまな板を包丁で叩いている。  【トトトントン】  昨晩進路の事で喧嘩をしたからまだ怒っているんだろうか??  【トントントントントトトントン】    「母さん……何してんの??」  母さんは俺の呼び掛けに答える事なく、何かを見つめたまま包丁を持った手を動かしている。  その目はどこか焦点が定まっていない気がした。  【トントントントントトトントン】  「母さん!! 何してんの!?」  大声で呼び掛けると母さんはチラッと俺の方を見て、自分の耳に手を当てた。  「何?? 今朝ご飯を何作るか考えてたんだけど」  母さんの手にはハンズフリーイヤホンがあった。  どうやら携帯で何かを見ていたらしい。  「母さん携帯で何見てたの??」  「えっ、何って?? これよこれ」  【トントントントン、ヒノノニトン♪トントントントン、ヒノノニトン♪】  「あたしこのCMが大好きでさ。これ見てるとご飯のアイデアが浮かぶんだよね」  どうやら包丁でリズムを刻んでいたらしい。傍目で見たら恐怖でしかないが。  「で、朝ご飯は何なの??」  「いや、それがまだ思い浮かばなくてさ」  「全然アイデア浮かんでないじゃん」  「けど代わりのアイデアは浮かんだよ」  「はっ、何が??……って……母さん……??」  母さんは俺の方を見ながらゆっくりと近づき、手に持っていた包丁を喉元に近づけてきた。  いや、本当に俺の方を見ているのかは分からない。  だって、その目はまだ焦点が定まっていなかったのだからーーー  《完》    
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