2.煙は西に流れる

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 魔女が殺され母の病が治ってから、二週間ほど経っていた。  早い朝のことだった。  家の戸が乱暴に三度叩かれた。  窓から見えた空は白んでいる。雲一つない酷いほどの快晴だった。  戸を叩く音で覚めた俺は寝ぼけ眼を手で擦る。母は朝の習慣である神への祈りを止めた。 「誰かしら。こんな朝早くに」 「さぁ……」  母と顔を合わせて首を傾げると、また三度乱暴に叩かれた。 「リューレ! サンドラ・リューレ!」  戸の向こうでは低い声で、母の名を呼んでいる。  彼女はきょとんとした顔のまま立ち上がり、戸を開けた。 「サンドラ・リューレ、貴様に魔女の嫌疑が出ている」  戸を開けると黒い衣装を身に纏った男が立っていた。首から下げるのは国教であるアータ教のシンボル。そして胸元には秤を模したバッヂ。つまり、異端審問官だった。  背後には軽鎧に佩剣した武装神官が二人、控えている。 「ちょっと待ってください。私が魔女? 一体なんのことやら……」 「司祭様たちの神判でこの日照りの原因が魔女サンドラ・リューレによるものだと出ているのだ。捕らえろ!」  その声で武装神官二人が母を押さえつけ、後ろ手に縄を縛った。
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