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魔女が殺され母の病が治ってから、二週間ほど経っていた。
早い朝のことだった。
家の戸が乱暴に三度叩かれた。
窓から見えた空は白んでいる。雲一つない酷いほどの快晴だった。
戸を叩く音で覚めた俺は寝ぼけ眼を手で擦る。母は朝の習慣である神への祈りを止めた。
「誰かしら。こんな朝早くに」
「さぁ……」
母と顔を合わせて首を傾げると、また三度乱暴に叩かれた。
「リューレ! サンドラ・リューレ!」
戸の向こうでは低い声で、母の名を呼んでいる。
彼女はきょとんとした顔のまま立ち上がり、戸を開けた。
「サンドラ・リューレ、貴様に魔女の嫌疑が出ている」
戸を開けると黒い衣装を身に纏った男が立っていた。首から下げるのは国教であるアータ教のシンボル。そして胸元には秤を模したバッヂ。つまり、異端審問官だった。
背後には軽鎧に佩剣した武装神官が二人、控えている。
「ちょっと待ってください。私が魔女? 一体なんのことやら……」
「司祭様たちの神判でこの日照りの原因が魔女サンドラ・リューレによるものだと出ているのだ。捕らえろ!」
その声で武装神官二人が母を押さえつけ、後ろ手に縄を縛った。
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