2.煙は西に流れる

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 俺は慌てて走り寄る。 「お母さんが魔女!? そんなわけないよ、審問官様。何かの間違いだよ」 「間違いなわけがあるか小僧。この令状にサンドラ・リューレ、その名が書いてあるのだ」 「でも……」 「黙るが良い。司祭様は神判を行ったのだ。神の御名において決が出たのだ。それとも何か、お前は司祭様を、主神アータを疑うというのか!」  一度、その言葉に逡巡する。だが。 「母さんが、魔女のわけない!」 「黙っていろ、魔女の子め!」  異端審問官が俺の腹を蹴った。たかだか齢十の俺は、床に簡単に転がる。 「やめて! 子どもには……子どもには手を出さないで!」 「ならば大人しく付いてこい」 「あ……、母さ……」 「お母さんは大丈夫、大丈夫だから」  母は俺を見て、そう笑った。父が死んだ時と、同じ表情だった。  母は抵抗することなく、異端審問官に連れて行かれる。  俺が、俺が母さんを守らなきゃ……。  そうは思うが、うまく呼吸できず立ち上がれもしない。俺の手はなににも届かず空を掴んだ。
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