1人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
俺は慌てて走り寄る。
「お母さんが魔女!? そんなわけないよ、審問官様。何かの間違いだよ」
「間違いなわけがあるか小僧。この令状にサンドラ・リューレ、その名が書いてあるのだ」
「でも……」
「黙るが良い。司祭様は神判を行ったのだ。神の御名において決が出たのだ。それとも何か、お前は司祭様を、主神アータを疑うというのか!」
一度、その言葉に逡巡する。だが。
「母さんが、魔女のわけない!」
「黙っていろ、魔女の子め!」
異端審問官が俺の腹を蹴った。たかだか齢十の俺は、床に簡単に転がる。
「やめて! 子どもには……子どもには手を出さないで!」
「ならば大人しく付いてこい」
「あ……、母さ……」
「お母さんは大丈夫、大丈夫だから」
母は俺を見て、そう笑った。父が死んだ時と、同じ表情だった。
母は抵抗することなく、異端審問官に連れて行かれる。
俺が、俺が母さんを守らなきゃ……。
そうは思うが、うまく呼吸できず立ち上がれもしない。俺の手はなににも届かず空を掴んだ。
最初のコメントを投稿しよう!