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それから二日。
母は帰ってこなかった。俺は誰もいない家の椅子に一人座っていた。不安で眠れず食事も喉を通らなかったせいか、意識はどこか不明瞭だった。
「魔女! サンドラ・リューレが西の広場で火炙りに処されるよ! 日照りの魔女だよ! 神の火に晒されるよ」
外では先触れが嬉しそうにそう叫んでいる。
ふらりと立ち上がり家を出ると、また酷いほどの日照りだった。いつもら閑散とした通りは、西の広場に向かう人が列になっていた。
みんな、笑っている。
人波に紛れて、俺も西の広場に向かった。遠くからでも聞こえていた歓声は、近づくにつれて大きくなった。
広場に着く。中央には磔された母。六等星まで見える俺の目には爪が剥がされてボロボロになった彼女の指先まで、しっかりと見えていた。
みんな、笑っている。
安心して、ほっとしている。これで雨が降るのだと、和やかにしている。そしてその口で母の死を高らかに謳っている。
前の魔女狩りの時、俺も笑っていたことを思い出した。
磔の横の台に三人の司祭が立つ。
アデル・ピーク、ヴィトヒ・ハイマン、グスタフ・キリシュライト。三人の司祭は、それぞれそう名乗った。
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