オオカミ少女が「カプチェット・ロッソ」の青年に恋をした話

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 頼んだのはクロワッサンとコーヒー。苦いのなんてホントは大嫌いなんだけど、こうした仕事をしていると“可愛いもの好き”や“甘いもの好き”はナメられることが多いから、カッコつけて頑張ってる。  そのときにレジを担当していたのが彼――パストラルだった。パッと目を惹く、紅い髪は黒いシンプルなエプロンによく似合っていて。顔立ちも悪くなかった。  「あの……どうか、されましたか?」  「……ッ! 何でもないわよ」  は、はぁ……と困ったような反応されたけど気にしない。イチイチ気にして、わざわざ言葉にしてくる方が悪い。  こんな感じで初対面時は最悪だったけど、クロワッサンの味は良かった。他のパンも食べてみたくなって――気が付いたら毎朝通うようになっていた。その流れでパストラルとも仲良くなって、会話を交わすようにまでなっていた。  苦手だったコーヒーも、彼のススメでカプチーノのを飲むようになってから、少しだけ好きになれた。  そんな1つ年上の彼と会う時間が楽しくなってきた頃……よくよく顔を見始めてきた頃とも言って良いのかしら。彼の顔立ちが、裏世界の知り合いと似ていることに気付いた。  元々は他の土地に住んでいたというパストラルは、「行方不明になった兄を探しに来た」目的でこの街に来たらしい。  まさかと思って後日。その知り合いが経営してるバーに行って、「弟とかいなかった?」って尋ねてみたら……ビンゴ。知り合いはパストラルの兄だった。  何でそんなこと聞くんだって不審がられたけど、別にって適当にお茶を濁しておいた。この世界は些細な会話さえ命取りの情報になってしまう。ちなみに例の内容はお店開店前に聞いたから、ギリセーフ。  そんなこんなで事実を知ったアタシだけど、表世界に住む彼に教えられるハズもなく――今更ながら、これ以上彼に近付いてはいけないって。そう思ったけど……結局会いたい気持ちが勝ってしまって、通い詰めてしまっていた。
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