最期の時

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最期の時

俺は誰だったのか? なんだったのか? いつしか記憶は真っ白になった。 部屋に飾られたイラストをぼんやり見つめて過ごした。 段々と呼吸が浅くなる。 誰かが呼んでいるみたいだけど、俺にはもう何にも残っていなかった。 ゆっくりと目を閉じた時 『尚也!』 誰かが呼んでいる声に振り返る。 たくさんの青い小さな花に囲まれて、俺に手を振る女性の姿が見えた。 ……あぁ、そうだ。 俺の名前は尚也で、彼女は俺が愛した女性。 そう、名前はみちるだ。 「みちる!」 きみの細い身体を抱き締め 「みちる、愛してる」 そう呟くと、きみはこぼれるような笑顔を浮かべて俺の身体を抱きしめ返した。 みちる……ありがとう。 きみの笑顔が、俺の救いだった───。
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