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思い出
俺の思い出の中心には、いつだってみちるが居た。
物心着いた時から、俺の隣にはみちるが居て
「尚ちゃんは男の子なんだから、みちるちゃんを守って上げてね」
なんて、幼いながらに母さんに言われた言葉。
実際は、病弱で泣き虫な俺が虐められる度、みちるが棒を振り回してイジメっ子を追い掛け回していた。
「尚ちゃんをいじめるのは誰だ!」
そう叫びながら駆け寄るみちるは、テレビの中のどんなヒーローやヒロインよりもカッコ良く、俺の前に立ちはだかった。
そんなみちるも、中味はお姫様に憧れる可愛い女の子だ。
幼稚園の時、将来の夢を絵で描く時間があって、みちるが「お嫁さん」ってドレスを着た女の人を描いていた。
そんなみちるに、同じクラスの悪ガキ共が
「違うだろう! みちるは尚也をお嫁さんにもらうんだろう!」
と言ってからかったのだ。
クレヨンを握り締め
「違うもん! みちるは、王子様のお嫁さんになるんだもん!」
そう叫んだみちるに、悪ガキ達は益々冷やかして
「王子様だって~! 尚也は王子様っていうより、お姫様だろう?」
と大きな声で笑われていた。
みちるはそんな悪ガキ達に
「みちるの王子様は、尚ちゃんじゃないもん!
オーロラ姫を助けた、強くてカッコイイ王子様だもん!」
そう叫ばれて、幼心に傷付いたのをはっきり覚えている。
「みちるちゃん。絵本に出て来る王子様なんて、この世に存在しないよ」
今思えば、子供の小さなヤキモチ。
俺の言葉にみちるは我慢していたのであろう大粒の涙を、大きな瞳からポロポロと零して泣き出した。
「尚ちゃんのバカ~!」
と言って俺をポカポカ殴りながら泣くみちるに、俺はみちるに嫌われたと思って大泣きしたんだ。
二人で大泣きしている俺達に、幼稚園の先生が慌てて飛んで来たっけ……。
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