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その1
「ゴン、そろそろオービス出てくるから、スピード落とせ。」
「そんなに飛ばしてねえよ。」
「前に罰金食らったの、忘れたのか?」
「それ、お前だろショージ。」
軽口を叩きながらながらも、ゴンちゃんは気持ちアクセルをゆるめた。
リラックスしながらハンドルを握る手が、BGMに流れているモーターヘッドに合わせてリズミカルに動いている。大抵の場合、熟練の職人というのは、同時に熟練のドライバーでもある。
隣には、落ち着かなくエアドラムを刻むショージ。
“ズギューン!”結成当時、助手席はナビ役であるジャッキーの定位置だった。今はスマホのアプリが、その役割を担っている。
アイヴィーは、お世辞にも広いとは言えない後部座席で、まるで飛行機のファーストクラスのように、ゆったりとくつろいでいた。着古した赤い革ジャンで、今日は赤い髪に黒いカチューシャを付けている。
その横には、青い顔をして車酔いに耐えるジャッキー。
隣は常に決まっている。
ゴンちゃんとショージ。アイヴィーとジャッキー。
うるさい二人と静かな二人。
誰が運転するかによって、前後はその都度変わる。
バンドのステッカーを貼った黒いオンボロのハイエースは、“ズギューン!”の機材車としては5台目にあたる。
過去の車は、すべて走行距離の限界をとっくに超えるか、手の付けられない故障の末に引退してきた。
見上げる空が、どこまでも青い。
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