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その2
高円寺を出発してから、高速に乗ってすでに3時間。もうすぐ長いトンネルに入る。その前に、サービスエリアで昼食休憩だ。
「ジャッキー、水。」
そう言って、アイヴィーは彼にペットボトルを渡した。
「…ありがとう。」
「薬、まだ効かない?」
「…うん。」
「飲むのがおせーんだよ!だいたい、その年で車酔いとか、お前は何歳だ!酔い止めとか、子供か!」
「やめろ、ショージ。子供に子供って言われるくらい、傷つく言葉はないぞ。」
「ゴン、てめ!」
今夜は18時からライヴ。早めにハコに到着したい。
リハが必要だから、じゃない。“ズギューン!”は筋金入りのライヴ・バンドだ。
会いたい奴らが、首を長くして待ってるんだ。
「ジャッキーに初めて会った時も、お前、そんな青い顔してたっけな。」
ゴンの言葉をショージが引き取る。
「DOMスタだったか、あれ?」
「いやP.I.Gでしょ。」
アイヴィーが訂正した。
「あれ、もう何年前?」
「うーん…分からねえ、覚えてねえ。何せ、はるか昔だ。」
そう言いながら、ゴンちゃんは車を左に寄せた。
機材車は毎回、バンドの売り上げと4人の自腹を合わせて、費用を捻出している。駐車場はゴンちゃんの会社の作業場が使えるので、安く済む。
名義は一応ゴンちゃんになっているが、必要なら誰でも自由に使っていい。ただし、アイヴィーは運転免許を持っていない。ツアーの運転は交替で担当し、アイヴィーはみんなのお世話係だ。
「あの時、リハ終りで飲みに行って、それで“ジャッキー”って名前になったんだよな?」
「…うん。」
「ショージがジャッキー、ジャッキーって騒いでたよね。」
「だって、どう見てもジャッキー・チェンだったろうがよ!ラモーンズじゃねえ、あの時のお前はジャッキーだった!」
「えー、アタシにはジョニーみたいに見えたけど。」
「大倉?」
「いまラモーンって言ったでしょ!」
薬が効いてきたらしく、ジャッキーは身体の力を抜いてシートに倒れ込んだ。
ぶっちゃけ、バンドも大きくなってきたし、会社の経費をうまく使えば、もっといい機材車を用意することもできる。
それでも、4人はグレードの高い車をツアー車にすることを良しとしない。
ポンコツ車でどこまでも。お前らに、会いに行くぜ。
そんな気持ち、絶対に忘れたくないから。
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