その2

1/1
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

その2

高円寺を出発してから、高速に乗ってすでに3時間。もうすぐ長いトンネルに入る。その前に、サービスエリアで昼食休憩だ。 「ジャッキー、水。」 そう言って、アイヴィーは彼にペットボトルを渡した。 「…ありがとう。」 「薬、まだ効かない?」 「…うん。」 「飲むのがおせーんだよ!だいたい、その年で車酔いとか、お前は何歳だ!酔い止めとか、子供か!」 「やめろ、ショージ。子供に子供って言われるくらい、傷つく言葉はないぞ。」 「ゴン、てめ!」 今夜は18時からライヴ。早めにハコに到着したい。 リハが必要だから、じゃない。“ズギューン!”は筋金入りのライヴ・バンドだ。 会いたい奴らが、首を長くして待ってるんだ。 「ジャッキーに初めて会った時も、お前、そんな青い顔してたっけな。」 ゴンの言葉をショージが引き取る。 「DOMスタだったか、あれ?」 「いやP.I.Gでしょ。」 アイヴィーが訂正した。 「あれ、もう何年前?」 「うーん…分からねえ、覚えてねえ。何せ、はるか昔だ。」 そう言いながら、ゴンちゃんは車を左に寄せた。 機材車は毎回、バンドの売り上げと4人の自腹を合わせて、費用を捻出している。駐車場はゴンちゃんの会社の作業場が使えるので、安く済む。 名義は一応ゴンちゃんになっているが、必要なら誰でも自由に使っていい。ただし、アイヴィーは運転免許を持っていない。ツアーの運転は交替で担当し、アイヴィーはみんなのお世話係だ。 「あの時、リハ終りで飲みに行って、それで“ジャッキー”って名前になったんだよな?」 「…うん。」 「ショージがジャッキー、ジャッキーって騒いでたよね。」 「だって、どう見てもジャッキー・チェンだったろうがよ!ラモーンズじゃねえ、あの時のお前はジャッキーだった!」 「えー、アタシにはジョニーみたいに見えたけど。」 「大倉?」 「いまラモーンって言ったでしょ!」 薬が効いてきたらしく、ジャッキーは身体の力を抜いてシートに倒れ込んだ。 ぶっちゃけ、バンドも大きくなってきたし、会社の経費をうまく使えば、もっといい機材車を用意することもできる。 それでも、4人はグレードの高い車をツアー車にすることを良しとしない。 ポンコツ車でどこまでも。お前らに、会いに行くぜ。 そんな気持ち、絶対に忘れたくないから。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!