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伊賀七の下に、谷田部の陣屋から使いが届いたのはそれから数日後の事だ。
手紙を開いた瞬間、伊賀七は飛び上がって驚いた。
キヨを召し上げたい、というのだ。
どうやら先日の一件で、若様がキヨをお気に召したらしい。死んだハナから受け継いだ器量の良さが、かえって裏目に出たか。キヨが普通の娘であればこんなに名誉な事はないと喜んで差し出すところだが、事はそう簡単ではない。
キヨがからくり仕掛けだと知ったら、若様はどんなに驚く事だろう。せっかく見初めた女子が想いを遂げられぬ人形だと知ったら、さぞかしがっかりなさるに違いない。それだけで済めば良いが、若様の怒りを買えば飯塚の家ごと取り潰しなどという事態も考えられる。
何とか穏便に断る術はないものか。若様自ら諦めてくれるような方法はないかと頭を抱えた伊賀七が、キヨを呼び出し意見を求めてみたところ、彼女はけろりとした顔で言い放った。
「何の心配もございません。キヨはしっかりと、お役目を果たしてご覧に見せます」
「しかしお前はその、女子としては……」
「それも私の口から、若様にちゃんとご説明申し上げましょう」
こうなったからには、キヨを信用して送り出すほかない。
翌日キヨは、迎えに来た若様の使者と共に谷田部の陣屋へと旅立った。
「ハナ、せめてキヨが無事帰って来れるよう、空の上から見守ってくれぃ」
残された伊賀七は仏壇に向かい、一人娘の無事を祈る事しかできなかった。
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