あのゴーストペンションで

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「……ねえ、見た目だけ? 性格は?」 「単純なとこ?」 「えー…」 「……明るいところ。好きっていうか気に入ってる。わりとあきない。おもしろい」 「もう……」 何度めかのキスを重ねて、目を開けると、細い光の道すじが、ふたりの足もとまで伸びている。 風の音が鳴っている。 何かがきしんだような音も響いて、階下から「……せんぱーい?」と呼ぶ声が聞こえた。  「ねえ……コハクたち来ちゃうよ……?」 「うん」 「離れないと……」 「いいんじゃない。見せつけてやれば」 「そ、そんな」 そんなわけにはいかないと思うのに、その黒い瞳に、吸い寄せられてしまって、あらがえない。 ……ギイー……ミシミシ……。 また、きしんだ音が響いた。 タチバナの肩越しに、一番奥の、南側の部屋のドアが、細く開いているのが見える。 瞬間、白い光が目をさして、あたしは思わず目を細めた。 な、なに……? 誰か、人が立っている。 コハクじゃない。リンゴちゃんでもない。 まぶしくて、よく見えない。 大人だ。おじさんだ。 ベージュの作業服を着ている。ヘルメットをかぶっている。 懐中電灯で、あたしたちを照らしている。 はっ。もしかして、幽霊?! ――そうだ、ここのペンションのオーナー夫婦が、確か心中したって……。 「なあーに、やってんだ、おめえら」 ヘルメットの幽霊が、口を開いた。 「立ち入り禁止だ、立ち入り禁止。 こげなとごで、いちゃついでんでねえぞ!?」 「――に、人間だあ!」 「ごめんなさーい!」 あたしたちはそう叫ぶと、競うように、ダダダダッと階段を駆け下りた。
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