あのゴーストペンションで

3/12
前へ
/12ページ
次へ
心霊スポットには、ついでにコハクを誘ってやった。 コハクは、アーモンド型の目をした小生意気な一年で、リンゴちゃんに恋心を抱いているのだ。 あたしとタチバナ、リンゴちゃんとコハク。 うん、おあつらえ向きじゃないですか。 部長に「シナリオの取材に行く」と伝えて、あたしたち四人は、制服のまま学校を抜け出した。 * 目指すのは、「白樺(しらかば)ペンション」、通称「ゴーストペンション」というところだ。 田舎道を三十分ほどバスに揺られた。 まったく誰が利用するのか、首を傾げたくなるようなバス停で、あたしたちはバスを降りた。 周りには民家の一軒も見当たらず、両脇には薄暗い樺の林が広がっている。 バス停に沿って二、三百メートルほど歩き、目印の看板で折れて、鬱蒼とした林の中の砂利道を進む。 本当にこの道でいいのかと、不安に思い始めた頃、突然視界が開けて、こじんまりしたペンションが、目の前に現れた。 もとは瀟洒な建物だったのかもしれない。 だけど今は、見る影もなく、荒れ果てている。 全体的に色はくすんで、壁にカラースプレーで何か落書きがしてある。 ガラス窓には、やぶれたカーテンがかかっていて、中の様子はうかがえない。 「うわあ。いかにもって感じだねえ」 タチバナが、黒目をらんらんとさせて、そう言った。 「気がのらないって言ってたくせに」 あたしは、少しあきれて言う。 「ウン。行く前は、面倒だなあって思ったんだけどさ。いざ来てしまえば、楽しくなってきたよ。そういうことってない?」 タチバナは、気まぐれ自由人だから、そういうこともあるだろう。 あたしはため息をついて、「それよりさ」と言った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加