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リンゴちゃんは、あたしたちを見て、困ったようにクスクス笑った。
コハクは「チッ……」と舌打ちして、
「何だよ。一瞬心配しただろ。タチバナ先輩のバカ」
などとアニメのツンデレ美少女が言いそうなセリフを吐いている。
気を取り直して、あたしたちは建物のまわりを歩いてみることにした。
チガヤやスイバ、ヒメジョオン。
背の高い雑草が、スカートの中の足をくすぐる。
あたしは、ゴクリとつばを飲んだ。
――どうしよう。
裏手の扉が、一センチほど開いている。
まだ日は落ちていないのに、のぞいてみると、中は暗い。
じっと見つめると、闇に飲まれてしまいそうだ。
扉に指をかけると、ぎいー……ときしんだ音が響いた。
あたしは、急いでみんなを呼んだ。
「どうしよう。あたしね、中に入れそうな場所見つけちゃった」
タチバナが、スマートフォンの懐中電灯で、中を照らした。
この部屋は、もとは厨房だったのだろう。
シンクや、ガス台の跡が見える。
鉄骨がむき出しになり、床にはガラスや廃材が散らばっている。
「……や、やめませんか?」
リンゴちゃんが、怯えたように、あたしの制服のすそを引っ張った。
あたしは、わざと明るい声で言った。
「大丈夫だって。ちょっとだけ行ってみようよ」
「でも……」
「せっかく来たんだしさ。これは取材なんだから」
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