あのゴーストペンションで

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「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」 タチバナが、謎の呪文をとなえ始めた。 「エロイムエッサイムアブラカタブラヤーレンソーランチョイチョイ」 「何それ。怖いからやめてよ」 「フフッ」 タチバナは含み笑いすると、ひらりと中に入っていった。 ちょっと。待って。置いて行かないで。 「待ってよおー」 あたしはあわてて追いかけた。 暗いし、足もとには、ガラスやらが散らばっているので、サクサクとは歩けない。 小柄(ミニマム)なあたしとは、コンパスが違うのか、タチバナの足は速く、ずんずんと先に行ってしまう。 うう、ひどいよう……。 どうして待ってくれないの? あたしは、だんだん情けない気持ちになってくる。 だって、ひどくない? あたし、タチバナの彼女なのに。 ふつう、こういう時って、手えつないだりするもんじゃない? 大丈夫? とかって言って、あたしを気づかって、 「みそらは怖がりだな」とか言って、 やさしくほほ笑んでくれたりするもんじゃない? ふつうはさ!! そんなことを思いつつ厨房を抜けて、リビングホールに出る。 レンガ造りの暖炉を横目に進んで、スマホの懐中電灯を向けると、闇の中に階段が見えた。 見上げると、タチバナが階段の上にいて、こちらに光を送ってくる。 「……タチバナ……待ってよ」 あたしは、階段を上った。 二階は、廊下に沿って、右手に三つドアが並んでいて、左手にはカーテンのかかった小窓が見える。 「もう、なんで先に行っちゃうの!」 あたしの叫びをタチバナは無視して、一番手前の部屋のドアノブに手をかけた。 「ここは鍵がかかっているみたいだね。どうする?」 「どうするって?」 「幽霊が出るのは、一番奥の南の部屋だったよね」 「い、行ってもいいけど……」
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