あのゴーストペンションで

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あたしは、チラリとタチバナの手元を見た。 右手には、懐中電灯がわりのスマホ。左手は空いてる。 ……手を。手をつなぎたい。 だけど、あたしから手をのばすのは、なんとなく負けって気がする。 ――気付け。 あたしは念じ、タチバナの左手に、トンと手の甲をぶつけてみた。 だけどタチバナは、クールな表情のまま前を見ている。 もう、なんなの?! 鈍いの? もしかしたら、あたしのおびえが足りないの? 「あーん、怖いよう」とか言ったほうがいい? 手をつないでよ。つなぎなさいよ! 足元を、サーッと何かの影が通った。 「ギャッ」とあたしは飛び退った。 「え。何?」 「分かんない。今、なんか通って……」 「ふうん。ねずみか何かじゃない?」 「ね、ねずみ……?」 しまった。いま抱きつけばよかった。 最大のチャンスを逃してしまった……。 それにしても。 あたしはタチバナの横顔を見つめて思う。 タチバナは、あたしのこと、本当に好きなんだろうか。 だって、不安になってしまう。 この冷たい態度はなに? つきあってから、半年以上たつけど。 そういえば、ちゃんと好きって言われたこと、あったっけ……。 告白したのだって、あたしからだったし。 あれれ? あれれのれ?
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