あのゴーストペンションで

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胸の中が、ざわめいた。 風が吹いて、ガタガタと廊下の小窓を揺らした。 カーテンのすきまから、光が細くさしこんで、廊下の床に一本の線をつくって、それは途中で折れて、壁がひとすじ、すうっと光って。 「タチバナ……」 小さい声で名前を呼んだ。 「なに?」 「あたしのこと好き?」 「……なんで?」 あたしは、キュッとくちびるを噛んだ。 不安のカタマリが、のどの奥につっかえて、うまく呼吸ができなくなる。 もう幽霊なんてどうでもいい。 あたしが今、幽霊よりも怖いのは。 この人に、嫌われることだと思う……。 「はあー。なんでそんな顔してるわけ?  みそらのそういうとこ、ほんと面倒」 タチバナは、ため息まじりにそう言うと、あたしのあごを、指先で持ち上げた。 あたしを見つめると、少しかがんでチュッとキスする。 言葉のわりに、キスは優しい。 タチバナは、あたしの頭を片手でぐっと胸板に押し付けて、ちょっとつっけんどんな感じで言った。 「ほら、ドキドキしてんの、分かんない?」 ……耳をくっつけてみたら、トクトクとあたたかな心音が響いている。 「タチバナ……」 あたしは、タチバナの腰に腕をまわした。 「分かった?」 「……うん」 制服越しに伝わる体温が、あったかい。 さっきまで喉につかえていたカタマリは、すっかり溶けてフアーと消えて……、おかげで少しおしゃべりになる。 「でもタチバナが悪いよ、冷たいんだもん」 「冷たかった?」 「うん。手えつないでくれないしさあ」 「……それは……」
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