雨の中で

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雨の中で

「くそっ!雨かよ」 バイトとバイトの合間時間。 俺は家に帰ろうとしてたのに急な土砂降りに遭い、雨宿りを余儀なくされた。 重く黒い雲はしばらく雨を降らすたろう。 「どこか雨宿りできる場所は」 視界の悪い中、辺りを見渡すと牛丼屋の軒下が見えた。 俺は軒下に走り込むとバタバタとあまつゆのついた上着を払う。 「きゃ」 「ん?あ、すまん」 服についた雨水を飛ばした先に人がいるとは知らず。 かかってしまった人に謝った。 見ればオオカミの亜人だ。 大きなスーツケースを持ちこちらを見上げている。 「雨、すごいですね」 「そうだな」 急に話しかけられたけどすっと答えることができた。 「やみますかね?」 「さあ?」 これは濡れるのを覚悟して家まで走って帰らないといけないかもしれない。 ぐうう… 急に隣から腹の虫が鳴った。 俺が視線を向けるとスーツケースのやつは恥ずかしそうに俯いた。 「腹減ってるのか?」 「はい…」 「食ってくか?」 俺は牛丼屋を親指で指差す。 「悪いですよ…僕もう行きます」 雨の中を走りだそうとしたそいつは石畳で滑って転びそうになる。 「おいっ!」 慌てて俺は片手でそいつを受け止めるが、ごつりとした感覚にすぐに手を引っ込める。 「随分痩せているじゃないか。 ちゃんと飯食ってるのか?」 「…もう5日食べてません」 「金はどうした?」 「盗られてしまいました…」 この辺りは治安が悪い。 田舎から出てきたのだろう。そんな奴はギャングの絶好のカモだ。 「俺が出すから腹いっぱい食え」 俺は名前も知らないそいつの手を取ると牛丼屋に入り、券売機に金を入れる。 「好きなのを押せ」 「悪いですっていいですって」 「いいから早く」 しばらく迷ったようにしていたがそいつは一番量の多いものを押す。 俺も同じものを押す。 席に座ると温かいお茶が出てきて、向かいに座るそいつはすぐにフーフーとふきながらお茶をゴクゴクと飲む。
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