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グループホームと言っても色々な種類があるが、西海のいう「グループホーム」は共同生活援助という障がい福祉のサービスを提供する事業所のことを指す。障がいを持った利用者さん達が職員によるサービスを受けながら1つの建物の中で共同生活を行うのだ。頼りになる身寄りがない上に身の回りの家事や入浴や排泄、食事といった日常生活に不可欠な動作などが不十分で生活に不安を抱えている方々にとっては非常に重要な社会福祉のツールである。
「いくら今の利用者さん達に必要だとは言っても、これだけ周りの住民から反対の声が挙がっていたら、立ち上げてからもやりづらいんじゃないですかね……」
西海は渋い顔をしながらそう零した。
ここ3年間、沢山の利用者さん達が「しゃいん」に通ってきてくれていたが、全員が全員何の問題もなく通所を続けてこられたわけではなかった。昼夜逆転の生活に嵌まり込んでしまった利用者さんが通所を休みがちになり結局やめてしまったということもあった。生活基盤がしっかりしないことには通所もできなければ、その先にあるかもしれない自立への道筋も見えてはこない。そこで私は今日常生活への援助を必要としている利用者、そして将来的にそれらが必要になるであろう利用者のことを考えてグループホームを立ち上げようとしたのだが、目の前につきつけられた現実はこの無数のファクシミリだった。
「折角高い金を出してここに家を建てたのに、話が違う」
「近くに施設が建ったことで建物の資産価値が下がったらあんた達は責任を取れるのか!?」
心ない言葉を受けるのは慣れているーー私はそう思っていた。だが、今回ばかりは心が折れそうだ。
「近隣住民の理解を得るために努める」
これは、グループホームを建てる上で自治体から求められている必要条件のひとつだ。これだけの反対がある中で開所することは難しい。
「何か、手立てはないんですかね……」
西海がそうつぶやいた瞬間、私の頭の中に1人の旧友の顔が思い浮かんでいた。「遠い世界」に行ってしまった旧友の顔だ。
ーーダメでもともと。一度相談してみるか……
私は電話帳を引っ張り出した。そして「や」の欄を目指してめくっていく。
山村政雄事務所
「あった!」
私は山村君の番号を電話機に打ち込んだ。
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