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月曜の11時。山村君はご丁寧にもネルシャツにスニーカーという普段着に着替えてやってきた。お忍びもここまでくると徹底している。
「おーい!みんな!」
私は声を張り上げた。職員が皆私の方を向く中で、利用者さん達の動きはバラバラだ。石山さんがニコーッと笑みを浮かべながら私を見つめる一方で、西森さんは脇目も振らずにビーズに糸を通す作業を続けている。障がいの種類も、個人の性格も、十人十色。当然反応の仕方もバラバラだ。
「西森さん、ちょっとだけいい?」
私は西森さんの席へと歩み寄り、目をじっくりと見つめてそう告げると、こっちを見てくれた。
「今日は私のお友達が来てくれています。皆さんの普段の姿が見たいとのことなので、いつも通りに作業をしていてください」
私はそう利用者さん達に伝え、山村君に目で合図を送る。
「ええと、東条さんのお友達の山村政雄っていいます。今日は皆さんの作業を見せていただけるということで、ありがとうございます。よろしくお願いします」
山村君がそう言うと、トコトコトコと石山さんが歩いてきた。
「ばぁ!」
石山さんはそう言い、右手を差し出した。山村君は石山さんの目の高さまで腰を落とすと、
「よろしくお願いします」
と笑顔で挨拶し、握手を交わした。
「よし!じゃあ作業を進めてください」
私が号令をかけると、皆が再び目の前のアクセサリの製作へと取り掛かり始めた。嬉々とした表情で作業をしていく利用者達の手によってアンクレットやブレスレットなどがひとつ、またひとつと仕上げられていく。
「皆明るく作業をやってるんだな」
山村君はそう言いながら、ぐるりと作業スペースを見て回る。そして西森さんの机の隣へとやってきた。西森さんは紫のビーズを黙々と糸に通していた。
「綺麗な飾りですね」
山村君が声をかけるが、西森さんは表情ひとつ変えずに黙々と作業を続けている。
「何かまずいこと言ったかな?」
あまりの反応のなさに不安になったのか、山村君は私にそう訊ねてきた。私は首を横に振った。
「西森さんはもともと自発的な発語はほとんどできない方ですし、ひとつの作業に集中したらまっしぐらになることが多いんだ。だから気にしなくて大丈夫」
私はそう答えた後、その場にしゃがんだ。
「西森さん、今作ってるそれ、とっても綺麗だってさ!」
私はそう言うと、西森さんの目線が届くところで右手の拳を見せ、親指を立てた。西森さんは相変わらず何も言わなかったが、ほんの少しだけ口角が上がった。
「ちょっとだけ、どこかで話せるか?」
山村君が私に耳打ちした。
「2階の事務所でもいいなら」
私はそう言い、山村君を2階へと案内した。
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