困った人、困っている人。

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「良い事業所だな。みんな表情が生き生きしている」  事務所のテーブルを2人で囲んだとき、山村君がそう言った。 「ありがとう。そう言ってもらえることがすごく嬉しいよ」  私はそう答えた。 「でも、中には困った利用者さんもいるんだろ?例えば大声出したりとかさ……」 「確かに、そういう人もいるにはいるよ」  少しだけ迷いを感じつつも、私はそう伝えた。そして 「でも、その人を『困った利用者さん』と言うのもちょっと違うと思うんだよな」  と続けた。 「ちょっと違う、というのはどういうことだ?」  山村君は目を見開きながらそう尋ねてきた。 「困った利用者さんというよりも、『』利用者さん、って言った方が正しいかな?って思うんだよね。だってさ、一番困っているのってその大声出してる本人なんじゃないの?」  私はそう答えた。 「困っている人、か……」 「そう。その困っている人が幸せを掴み取るためのひとつの選択肢としてグループホームを建てたいと思ってるんだ。本来、人間ってみんな幸せになるために生まれてはずだろ?」  私の言葉を前に、山村君は少し考え込んでいるような表情を見せている。 「お願いだ。力を貸して欲しい」  私は頭を深く下げた。 「覚えてるか?小学2年生のときのこと」 「は?」  山村君の急な問いかけを前に私の口から気の抜けたような声が飛び出した。 「僕は小さい頃から運動が苦手で、逆上がりが全然できなくてなぁ。近所の公園で毎日のように逆上がりのやり方をずっと教えてくれてたじゃないか」 「……そんなこと、あったか?」 「あったよ。その頃からちっとも変わってないよな」 「……それは、どういうことだ?」  私が問いかけたところで、山村君は優しそうな表情を見せた。 「困っている人を見ると放っておけない、なんとかして助けになりたいっていうその献身的な姿勢、本当に変わってないなと思うよ」  山村君はそう言うと、カバンの中から封筒とファイルを取り出した。私が土曜日に見せて、それから山村君に預けていたファイルだ。 「グループホームをつくる上で、今後住民説明会みたいなのをやる予定はあるか?」 「今週の土曜に一応予定はしているよ」  私がそう答えると、山村君は深く頷いた。 「わかった。そのときに私も出席して話をしよう。なんとか理解を取り付けられるようやってみる」 「ありがとう!」  私は山村君の手を両手のひらでがっしりと握った。  今週の土曜日、グループホームの命運はこの日に託された。
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