説明会の日

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説明会の日

 説明会の会場には何十名もの人が詰めかけていた。会場を見渡すだけでピーンと張り詰めた空気を感じる。来場者の中には 「グループホームは要らない!」  と書かれた真っ赤な鉢巻を巻いている人もいて、グループホームの設立を歓迎するようなムードは微塵にも感じることができないまま、私は口を開いた。 「本日はお集まりくださりありがとうございます。ではこれから当法人が新しく設立致しますグループホームについての説明会を執り行わせて頂きます。なお今回は当法人の事業の賛同者として、県議会議員の山村政雄先生がお越し下さっています」  私がそう紹介すると、山村君が立ち上がり一礼をした。 「では最初に当グループホームについての説明をさせて頂き、その後に質疑応答という流れに致したいと思います。お手元のパンフレットをご覧ください」  私はそう言い、グループホームの説明を始めた。法人の理念から始まり、立地や部屋の間取り、入居予定となっている人数、どういった障がいの方を受け入れるのかなどを淡々と説明していく。勿論、利用者さんと結ぶ契約の中では暴力行為など著しい問題行動があった場合は退去させる条項があることや、万が一利用者さんの故意や重大な過失が原因で近隣住民の方々に対して損害を与えるケースを考えて損害賠償保険に入っていることなども説明を加えた。私にやれることは全てやったつもりだ。だが、会場には想像以上に強い逆風が吹いていた。 「あなたが言うことはあくまで理想論でしょ?」  と冷ややかな反応を示す主婦もいれば、 「グループホームなんかができたら人が寄り付かなくなって間違いなく地価が下がる。老後の資金に土地を売ろうと思っていたのに……あんたらのせいで何百万も何千万も損するこっちの身にもなってみなさい」  とわめく老婆の姿もあった。反対を唱える声が次々に両耳を突き刺していく中、私は眉間に皺を寄せ、思わず目を閉じた。  山村君が立ち上がったのは、そのときだった。その襟元には県議会議員のバッジが輝いていた。
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