最後の戦い(1)魚と鳥

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最後の戦い(1)魚と鳥

 川をいくつ、山をいくつ超えたか。  いつ刺客が襲って来るか、何人刺客は残っているのか、わからないままに疾風達は旅をしていた。 「おお、大漁ね!」 「今日は魚三昧だぞ」 「楽しみ!」  河原で野宿する兄弟は、決して気を抜いてはいない。警戒すべきことろはしている。  魚、木の実、野草、獣、鳥。野宿そのものはあまり苦にはならない。いつ来るか、何人来るか、わからないで警戒を続けることが、神経を削るものだ。  しかしそれも、兄弟3人でいれば、大した事も無かった。 「ちゃんと追って来てるかな」  焼き魚を齧りながら狭霧が言う。 「見失う程ぼんくらじゃないでしょ、いくら何でも」  八雲は笑ってそう言う。 「鳥に見て来てもらうか」  疾風はそう言って、魚をもぐもぐとしながら空を見上げた。  迎え撃つ場所として選んだのはここだ。人里から離れていて、街道も近くにはないので、見られる心配もない。 「今頃、どの辺を歩いてる事になってるのかしら」  八雲が言うのに、狭霧が思い出しながら言う。 「大体、桑名の手前辺りじゃないかな」 「お伊勢参りかあ。  あ、何か土産物もいるな」 「何か見繕って帰りましょう」 「そうだね。でも、早く済めば、本当に伊勢に行けるんじゃない?」  狭霧の声音が変わり、3人は一方を見た。 「よお。飯時だったか」  槐が立っていた。  仕留めて毛をむしり、直火で焼いた鳥をむしゃむしゃとしている。 「ああ。ちゃんと血抜きして捌いて焼けばもっと美味いのに」  疾風が嘆く。 「原始人並みの味覚なら、これでいいんじゃない?」  八雲が失礼な事を平然と口にする。 「塩とかも振ってないみたいだよ」  狭霧が言うのに、 「言ってやるな」 と疾風が首を振って見せる。  それで槐は何となく物悲しくなってしまった。 (おかしい。これで少しビビらせるはずだったのに)  予定では、プレッシャーを与えるつもりだったのだ。  なのに、彼らに同情され、彼らの方が美味しそうな焼き魚をぱくついていた。 (ああ、もう、何もかもに腹が立つ!)  槐は、齧りかけの鳥を焚火に放った。 「お前らは昔からそうだ。余裕がありそうな面で、親が死んで何もかも無くしてからも笑ってやがった」  槐はペッと唾を吐いた。 「気に食わねえ。生意気なんだよ、手前らは!」  静かに、疾風が訊く。 「だから、滅茶苦茶な任務に就けたのか」 「ああ」 「里の方針に逆らって、こうして狙って来るのも?」 「そうだ」 「死んだぞ、お前の命令のせいで、その4人。どんな気持ちだ」 「使えねえやつらだ。だが、俺がこの手で仕留めてやれると思えば、悪くねえな!」  言い、何かを投げつけて来る。それに疾風が鳥を投げ返し、狭霧、八雲は横に飛び、疾風は後ろに飛ぶ。  槐が投げたのは火薬だった。それが火のついた鳥にぶつかって四散し、槐は顔をそむけた。 「実戦経験が足りないのよ!」  八雲が突っ込んで殴り掛かると、槐は下がってかわす。  その槐に、狭霧がつぶてを投げると、中に防具を着けていたらしく、カンカンと音がした。  疾風は焚火の中から串を引き抜き、投げつける。  これは剥き出しの手首と足首に突き刺さり、槐は大きく吠えた。 「痛えじゃねえか!」  そして、八雲を投げ飛ばした。 「クッ!」  狭霧は言った。 「あのクスリを使ってるよ!」  瀬名の使っていたクスリだ。 「へへへっ。俺は無敵だぜ!」  槐は、リミッターをクスリで外していた。
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