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抜け忍と追手
「里を抜けるなんて考え直せ!追手をかけられて、殺されるだけだぞ!?」
共に育った里の仲間だった者が説得する。
それに疾風と八雲は無言を貫き、背後の弟、狭霧をかばうように油断なく苦無を構えている。
「今ならまだ大丈夫だ。な?お頭にも何も言わない。お前らは散歩してただけだって言ってやるから」
それに、疾風は苦笑を浮かべた。
「お頭はそれに騙されてはくれない。だろ?俺は、妹と弟が大事なんだ。妹を、次の世代の忍びを産ませるために、お頭たちに差し出すのも嫌だ。弟を、病だからって殺させるのも嫌だ」
友人は、それに少し動揺した。
里の女は、外に任務へと出て行くだけではない。次に続く忍びを産むためという名目で、お頭たち幹部の相手を務めるという仕事もある。
八雲はお頭の息子から、その任に着けと言われてしまった。お頭の息子は、八雲に力で何度挑んでも勝てなかったうっぷんを晴らす気だ。さんざんオモチャにした後は、里の皆の子供を産めと、里の男全員の女にする気に間違いない。
狭霧は最近眩暈が続いて、原因がわからないでいた。
とは言え、きちんと医師に診てもらったわけではない。薬草が効かなかったので、もう用無しという宣告を受けたのだ。
訓練などでケガをしても、充分とは全く言えない生活環境で病を得ても、助けてはもらえない。用無しとして、処分されるだけだ。
女がそれで悲しい思いをする事も、ケガや病で友を殺さなくてはならなかった悲しみや怒りも、皆、よくわかっている。
「俺達は、長崎に行く。どうやっても長崎に行って、狭霧を診てもらう!」
「追って来るなら、容赦しない」
疾風と八雲が言い、狭霧を間に抱き込むように、背後の川に飛び込んだ。
「ああっ!」
断崖の上から川面を見るが、激しいその川の流れに、3人の姿は見つけられなかった。
「とにかく、お頭に報告をしないと」
その忍びは友の顔を脳裏から振り切るようにして、里へと急いだ。
「抜けただと!?」
報告を聞いたお頭とその息子が、いきり立つように怒鳴った。
「探せ!探し出して、殺せ!」
「くそ!疾風と八雲と狭霧の兄弟か。掟を破って生きていられると思っているとはな」
「狭霧を腕のいい医者に診せる為に長崎に向かうのは間違いないだろう。だが、その狭霧は病で、満足に早く移動もできまい」
お頭は彼らを追い、殺すための追手の選定を始めた。
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