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 その後の記憶はあやふやなまま、気がつくと家の前に立っていた。それほどまでに衝撃的な事実に、半信半疑であったが、ある意味では吉報でもあった。この事実を妻に話、離婚するきっかけにできる。  あの醜い妻と、この先幸せな家庭を築くことはできないと確信している僕には、まさに神様が与えてくれたチャンスに感じた。  窓の外から妻を見ると、キッチンで料理をしていた。やはり、美しい容姿をしているが、時折お尻をかきむしり、鼻をほじっていた。  その様子を見ていると、やはり離婚したいと思う感情が湧いてくる。  家に入る前に、井戸の水で顔を洗う。小心者の僕にとって、離婚を切り出すことはとても勇気のいることだ。気合を入れる意味も込め、冷たい井戸の水で顔を洗う。  やはり井戸の水は冷たく、その水温で頭が冷静になる。服の袖で顔を拭うと、井戸には綺麗な月が映っていた。何て綺麗な月なのだろう――と、その美しさに見とれていると、そこにはこの世の者とは思えない化け物が一緒に映っていた。分厚い唇、長くと尖った顎、不揃いの嚙み合わせの悪い歯、潰れた鼻、濃く不格好な眉毛。そのすべてが醜く、まさに化け物だった。 「こ、これが僕の顔……う、嘘だろ?」  これまで、鏡を見ることのなかった僕は、自分の顔を見たことがない。美しいものに惹かれる僕が、まさかこんなにも醜い顔をしているとは。  僕は、声を殺して泣いた。家の中で食事を作っている妻に聞こえないように、細心の注意を払って泣き喚いた。  やがて、涙が枯れた頃。僕は、ポケットにしまっていた糸を取り出し、右目の瞼を塞いだ。同じ穴に針を通すことはできず、少し痛みを伴ったが、しっかりと瞼は塞がれ、開くことはなかった。 「ただいま」 「お帰りなさい。今日もお仕事、ご苦労様でした」  いつものように美しい声で、妻が迎えてくれた。  僕は一言「ただいま」と言ってテーブルに着く。いつものように愛する妻と一緒に、夕食を囲むのだった。
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