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 右目の糸を解いた後。ゆっくりと目を開けると、強烈な光と共に痛みを感じすぐに右目を閉じた。真っ白で強烈な光。これまで、暗闇に閉ざされていた僕の右目にこの光は強烈過ぎて、開けたままにしておけなかった。  そんな時、かつて祖母が話していた言葉を思い出した。この世界には、強烈な光を放つ太陽が空に浮かんでいて、その光を浴びて植物は育ち、大地を温めていると言っていた。祖母の言葉通り、この強烈な太陽の光が、僕の右目に痛みを与えているようだ。  まるで、禁忌を犯した罰のように……。  その後も、何度か右目を開けては閉じ、その度に痛みを感じながら、妻にばれないよう、大きな声を出さないように気をつけた。徐々に、右目が光に慣れたようで、痛みは消え、ぼんやりと白い世界が僕の右目に広がると、少しずつ輪郭がハッキリとしてきた。 「……見える。これが……」  まず、最初に飛び込んできたのは、殺風景な洗面所の壁だった。所々汚れていて、幾つものまだら模様になっていた。そればかりか、天井付近の壁は剥がれていて、部屋の至る所にクモが巣を張っていた。もう少し綺麗な部屋を想像していたが、小汚い部屋だった。  最初に目にした光景が、美しいものではなくこんな小汚い部屋なことに心を折られていると、キッチンの方から妻の声が聞こえてきた。 「まだ、顔を洗っているの? 朝食出来ましたから、こちらにいらしてください」 「……ああ、今行く」  いよいよ、妻の顔を拝む時がきた。正直、この小汚い部屋を見て、若干の戸惑いはあったが、毎晩妻の顔を触っていた僕には自信があった。妻の顔は美しいに違いない。  僕は、愛する妻の待つキッチンへと向かった。
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