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 キッチンに着くと、すでにテーブルには朝食が並べられていた。パンに、サラダに卵料理と、質素な朝食であったが美味しい匂いが漂っていた。 「お、おはよう」 「おはようございます。スープを温めていますから、先に座ていてください」 「あ、ああ……」  妻はスープを温めているようで、後ろ姿しか見えない。みすぼらしいワンピースを着てはいるが、長い髪と雰囲気から美しさを感じた。  これは、想像していたように美人に違いない――と、確信していると、妻が振り返りスープを持ってテーブルへと向かってきた。 「…………」  初めて妻の顔を見た。その顔は、想像していた顔と違っていて、予想の上をいくものだった。整った顔立ちに、透明感のある肌。胸は大きく膨らんでいて、ワンピースの裾から覗く足は、細長く美しい。天使を見たことはないが、地上に舞い降りた天使。それが、僕の妻だ。 「……よ、よかった」 「……どうしました?」 「あ、い、いや、何でもない」 「……そうですか。あなたの分のスープを、今お持ちしますね」 「ああ、頼む」  右目の糸を解く大罪を犯しはしたが、それに見合うような対価を得たような気がして報われた。これで、愛する妻もこの部屋のように小汚い見た目をしていたら――、そんなことを考えながら、僕のスープを用意する妻を眺めていた。  後ろ姿の妻が、鍋からスープをよそうと、衝撃の事件が起きた。  ワンピースの裾へ手を伸ばすと、そのまま妻は裾をまくり上げて、お尻をかき始めた。ボリボリと下品な音を立て、美しい姿をした妻からは想像もできないようなはしたない姿。何よりも、僕に不快感を与えたのは、そのかきむしっているお尻に出来物があることだった。赤くブツブツと腫れあがった小さな集合体が、とにかく不快だ。  あまりの衝撃に、言葉を失っていると、振り返った妻が笑顔でスープを運んできた。さっきまで、かきむしっていた指の入ったお皿を持って。
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