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「珍しいよね。今時スマホのアラームじゃなくて目覚まし時計を使ってるなんて」
オープンカフェで向かいに座った彼女がそう言った。
28歳でできた初めての彼女と付き合って1年半。
俺たちは半年前に婚約をして、結婚式は来月に控えている。
つまり幸せ真っ只中ってわけだ。
俺はアイスカフェラテのストローをくるくると回しながら答えた。
「もともとあの目覚まし時計は、俺があまりにも朝に弱いからってことで兄貴が作ったんだ」
「ええっ? お兄さんが作ったの? すごいね」
「いや、すごくないよ……。それどころか」
俺はそこまで言うと、あの目覚まし時計を兄にプレゼントされてからのことを思い出す。
あの目覚まし時計は兄いわく『誰でも絶対に起きる』という謳い文句で企業に売り込む予定だったらしい。
でも、うまくいかなくて兄はまだ自称・マッドサイティストを名乗りつつフリーターをしている。
あの目覚まし時計は、音と音声で起こすというありふれた機能だが、他の目覚まし時計にはない機能が1つあった。
それは、目覚まし時計自身が嘘をつくことだ。
俺にはどういう仕組みなのかはわからない。
だけど、あの目覚ましに午前7時に起きたいと設定すると、朝5時30分にアラームが鳴る。
そして『午前7時です』と嘘の時刻を喋るのだ。
アラームの音で目を覚ましかけたところにそんな嘘を言われたら飛び起きる。
俺は何度、あの目覚ましに騙されたかわからない。
確かにしっかりと目は覚める。
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