告白

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とうとう自らの口でむつみが好きだと言ったセリは、緊張の糸がぷつりと切れた子供みたいにわんわんと泣きだした。 どうして黙って居なくなったの、なんで春海に着いてったの、嫌われたのかと心配した、春海が好きになっちゃったんだと思ったらお腹痛くて、捨てられたのかもと考えたらゲロ吐いちゃったんだけど。 「もうあんなの嫌だ、どこにも行かないでー」 と、ずっとこんな感じだ。呆れを含んだ笑みを漏らすと、泣き過ぎてしょぼしょぼの顔をしたセリにむつみくんの馬鹿と罵られた。 やっと認めたという安堵と、子供泣きするセリの姿を見て言い知れぬ高揚感を覚えたのは、好意を向けられる気持ち良さを学んだからだと思う。 ぽんぽんと頭を撫でていたらめそめそしていたセリはもぞもりと身じろぎ、一歩下がってむつみから距離を置くいた。何事かと様子を伺っていると、肩を竦め俯きがちのセリがちゃんとするから聞いてと言い、すと差し出したのは自身の右手。 まるで握手を求める様な仕草を見せられ首を傾げた。 「ぼくは、伊熊芹太です。むつみくんが大好きです。よぼよぼのおじいちゃんになっても、死んで骨になっても一緒がいい」 「……、」 「ずっと一緒にいてください、よろしくお願いします」 「……ぁ、ぇ………」 「……むつみくん、返事」 「へ、返事……?」 「返事して、はいって言って」 唐突に始まった自己紹介と告白に目を丸くしていると、顔から首の辺りまでほんのり赤く肌を染めたセリは右手を突き出して、ほら手を握れ、さあ告白したのだからはいと言えと催促をする。 「もう!ぼくたちおんなじお墓に入るんだよ!」 「…ーーッ!」 「どこにも逃がさないからねッ!」 暫くは伸ばした手を握り返してくれるのを健気に待っていたが、終いには痺れを切らして無理矢理むつみの手を鷲掴む。その手をぶんぶんと上下に振ったセリは、さっきまで泣いていたとは思えないほど晴れ晴れと笑った。 「お、同じ墓に?」 「言ったでしょ、骨になっても一緒が良いって」 握手をしていた手は指を絡め取られ、ぐっと引っ張られたついでに腰も抱かれる。セリは分かった?と可愛らしく首を傾げ、むつみの唇を啄んだ。 「ね、すきって言って。自分だけが言うのはフェアじゃないってやつの気持ち分かっちゃった、ぼくも欲しい!」 「……す、」 「お!」 「……す、……、」 「うんうん」 「……す、き、……なのかなあ」 「あーあーなんで意地悪するのッ、むつみくんぼくのことすきだよね!すきでしょうッ?大好きだよねえ!」 散々焦らしたくせにどの口が言うのだとむつみが顔を顰めても、そんな事はお構いなしでねえねえとこちらに体重をかけてくるものだから、セリの腕という支えが無いと真後ろに転んでしまいそう。そう思った瞬間、踵が砂に取られて沈む。二人してあっと悲鳴を上げた後はもう背中が砂浜に着地していた。 視界一杯に写るのは青空をバックにしたセリの顔、色素の薄い髪が陽の光を受けてキラキラと輝き輪郭を縁取った。むつみの顔の横に両手を着いて体を股ぐ様にした彼はまた泣きそうで、でもどこか幸せそうなそんな顔をして見下ろしてくる。 「これは酷い、砂だらけだ。本気でフィンリーに怒られる」 「雪緒ちゃんにも雷落とされるかも」 「一緒に怒られてって言ったからな、逃げるなよ」 「えー、どうしようかなあ」 濡れた浴衣に砂が沢山纏わりついて気持ちが悪い。真上のセリを退けようと腕で押すけれど彼は動かず、むつみが真下で身動げばくすくす笑う。 「むつみくんあのね、ぼく本気だからね。一緒にお墓に入るって」 「わかったわかった、わかったから」 おざなりに返事をすると、頬を膨らませたセリは全然わかっていないと憤慨した。 「きみのご両親に会ってきた」 「……ーーはぁッ!?」 「日本では結婚できないしね、養子縁組か……いつかは海外で式を挙げるのも良いなって。その時は招待したいんだけどいいですかって聞いてきた」 「……ほ、ほんとに?」 「うん、むつみくんを一生大切にします、最後はおんなじお墓に入りたいから許してねって言ってきた。そしたらきみのパパに今度は一緒においでって言われちゃった」 へらりと笑うその顔にマイナスの感情は見て取れない。両親に反対されなかったのだろうか、なんとも言い難いむず痒さにむつみの手は砂を掘る。連絡取れないからって心配してた、ちょっと会社関係で参っちゃって療養してたけど今は元気だから今度連れて行きますってママと約束してきたよ。 「むつみくんのママもパパもむつみくんに似ていて可愛いねえ」 目を細めて笑うから怒る気さえ簡単に失せてしまう。可愛いかどうかは置いといて、そりゃ似てるでしょうよ親子だもの。すっかり毒気を抜かれて空を見上げれば、遮る様にセリの顔が視界に飛び込んでくる。それはぼくを見てというような子供じみた仕草だ。 むつみはとうとうそれを素直に可愛いなと思ってしまった事を認めた。
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