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向き合い膝を突き合わせて座れば、セリが何も言わないから沈黙が訪れた。
しかし行動は雄弁に語る、先程からむつみの左手を握り薬指をすりすりと擦るのだから、もしかしなくても指輪が引っかかっているのだろう。
思い出の中のあの二人の仲睦まじく寄り添い見つめ合う眼差しは、互いへの思いやりや慈しみで溢れていた。この先本当に家族となりパートナーになるというのなら、あの二人のようになりたいと思うほど彼らの作り出す雰囲気は穏やかで素直に素敵だなと思った。
「きんちゃん、俺たちもあんな風になれるかな」
「なりたいの?」
「なりたいよ、だって同じ墓に入るまで一緒にいるんだろ?」
頬を包む手に擦り寄るとセリは歓喜の吐息を漏らす。互いの額をくっ付け、顎を上げて言葉無く唇を強請るとそこを優しく食まれた。セリはむつみから求めるととても嬉しそうな表情をする、それこそ蕩けるようなという表現がぴったりなくらい。しかし今日はそんな表情の中に何か違和感を感じて、どうした事かとむつみはセリの瞳を覗き込む。
「うん……うん、そうだね。ね、あのさ……むつみくん、どのくらい?」
「……ん?」
「きみの中のぼくは、どのくらい?」
「聞きたい?」
「聞きたい……」
「いいよ、じゃあもう一回聞いて」
二人でもう一度姿勢を正し向き直すと、セリはどこか緊張した面持ちでこくりと唾を飲む。このやり取りを繰り返している内に気が付いた事がある、無邪気を装っているがセリがこれを聞く時はだいたい何かしらの不安を感じている時だ。むつみはそわそわが止まらないこの大きな男を可愛いと思う、そしてセリがしてくれたように感じている不安を払拭してあげたいとも。
さあどうぞと言えば、セリは大きく頷いた。
「……ねえ、むつみくん。きみの中のぼくはどれくらい?」
「俺の中のきんちゃんは………これくらい!」
頭上で指先がつんとぶつかる。むつみがして見せたのはグレープフルーツ程の、ではなくていつもセリがする頭の真上で丸を作るポーズ。するとどうだろう目の前彼は目を丸くして口をぱくぱく開閉させている、頬は上気しているから困っているのではなさそうだ。
「きんちゃん、もうちょっとこっち来てよ」
「……ぁ、んん」
誘えばセリは頬を赤くしてにじり寄り身を屈める、むつみは掲げた腕をそのまま下ろして彼を捕まえた。むつみの腕が作った穴にすっぽり嵌ったセリは途端に不安を霧散させうははと楽しそうに笑う。
「あー、むつみくんに捕まった!」
首に手を回して抱き寄せるとセリも負けじとくっついてくる。二人で戯れついて縺れるようにソファへ倒れたら、どちらとも無く互いに身を擦り寄り寄せた。むつみがセリの頭を抱くと、セリは身動いで落ち着くポジションを見つけ大人しくなった。
額に口付けてやれば、セリは目尻を赤くしてむつみを見上げにへらと笑う。
「なあ、エッチの時しか好きって言ってやらなくてごめんな」
「…ーん、気が付いてたのそれ?」
「不安にさせてごめん、ちゃんと好きだよきんちゃん」
「そっか、ぼく不安だったんだね……」
「俺は恥ずかしいからあんたみたいに好き好き言えないし。だから覚えておいて、きんちゃんの事大好きだから」
胸元にぐりぐりと額を擦り付けていたセリは、ふと身を起こすとそうかと何か合点がいったように頷いた。そうしてスウェットズボンのポケットに手を突っ込むと、その手をむつみの前へ差し出した。ぎゅっと握られていた手がそっと開かれると、そこに現れたのは二つの輝く指輪。
「ここに指輪があります」
「指輪……」
「うん、これねご両親に会いにいく前に買っちゃった、海で渡しそびれたんだけど……。ね、これむつみくんの指に嵌めてもいい?」
「……そしたらきんちゃんは安心する?」
「言葉も欲しいけどね、でもほら……これだといつでも好きが見えるよ」
「好きが見える、いいね。わかった、その穴に嵌ってやるよ。俺きんちゃんの持ってる指輪が欲しい」
はい、とさも当然というように左手を差し出すと、セリはぷるぷる震えながらむつみの薬指に指輪を嵌めた。そして指輪の嵌ったむつみの手を目の高さまで持ち上げて、感極まった様に熱い溜息を吐く。
「……うわあ、すごい……」
「何泣いてんの、次はきんちゃんの番だから」
「……え、泣いて……わ、本当ッ、ぼく泣いてる。変なの……なんだろうこれ」
ほろほろと頬を伝う涙を戸惑いながら拭うセリから指輪を受け取り、持ち上げた左手の薬指へ通せばそれは骨張っている指の根元に指輪はぴたりと嵌った。
指を絡めて握り合う互いの左手薬指に光る指輪。誓い合った証とでもいうのか、成る程これは確かに感慨深い。
落とした視線を持ち上げると、セリは前が見えないと言いながらもっと沢山の涙を流して泣いていた。
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