津村むつみ

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体柔らかいね、こんな体位もできちゃうの。 可愛いなあ、すごいすごい、とっても上手だよ。 いいよ、凄くいい。 ああ凄い……気持ち良い。 どうしようね、ちんちん全然治らないや。 激しく身を揺すられても軋む音を一つも上げない重厚なベッドの上で、額に汗を流して飽きず腰を振る男が目を細めた。もういつからこうしているのだろうか、快感に感じ入って至極楽しそうに笑う甘い声が息継ぎの合間に幾度となく囁く。目の前にある薄く開いた熱い息を吐き出す口は時折りぎゅっと引き締まり、ん、ん、と断続的な呻き声を漏らす。 次いで腹の内側にじんわりと熱を感じた……。 荒い息を整えながら前髪を掻き上げて恍惚とした男はふはと笑い、自らの下腹を撫で何回中で出したかなあ……ごめんね、後始末は任せてねとのたまった。 男は引き抜いたものを数回扱き、また窄まりから奥へ奥へと押し入ってくる。肌と肌が打つかる音が耳に届く頃には揺れる足が視界に入り、朦朧とする自分の口から溢れるのは意味のなさない声……というかこれは最早汚い音。 さっきから男は何度も気持ち良いと繰り返す、けれどなにも気持ち良いことなどない。壊れたラジオが発する様な、あのぶつぶつと途切れる不快な音が耳をおかしくする。これが自分の声だと認識する度に酷い頭痛と吐き気に襲われて意識を失いかけた。 けれど意識を手放す直前に、まだ寝ないでと言う男の声で呼び戻される。 「ー……あー、最高」 四肢はもうすっかり動かない。男はくぐもった声を上げた後、ぐっぐっと奥に先端をしつこく押しつけて、気持ち良さげに大きな息を吐いた。 どんな仕草も様になる頗る見目の良い男。 ーーー……この男……この男いったいだれだっけ? 津村むつみ 25歳 春の出来事。
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