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四畳半神話体系
予め言っておくのだが、決して森見氏が悪いというわけではない。この小説をあのような場所に持っていってしまったのは私の不手際であって森見氏が断罪すべき人物ではないのは一目瞭然なのである。
よって私が四畳半神話体系などというシロモノを読んでしまったのは完全なる事故である——
出会いは一蘭のすぐそばのブックオフだったはずである。数多くの本が所狭しと並べられている其処に彼はいた。以前より気になっていた彼を私はすぐさま手に取った。幸い我が慈愛深し聖母は機嫌が良いように見えた。私は彼をせびりいとも容易く手に入れたわけである。
さて、しばらく彼は有象無象の蔓延る机の上に置かれていた。なんとも彼は寂しそうにしていたし早く読んでやりたい、だなんて思っていたが私は特大の十字架を背負った受験生である。それとなくスルーして数日経つ。
好機は正月を挟む地獄の勉強合宿であった。霊峰富士の元に勉強のことしか頭にない骸骨の蠢く、まさしく地獄である。三泊四日という馬鹿げたスケジュール。一才の自由が奪われた牢獄で我々はひと時を過ごした。
そんな地獄を共にしたのは「四畳半神話体系」と「呪術廻戦ファンブック」であった。
いつぞやの書生のように風呂敷に本を包み、意気揚々と出かけたは良いが。完全に本選ミスをしたことに現地で気づくのであった。
描かれていたのは京大生のなんてことない日常である。森見調が心地よく心臓に染み渡る。おもしれーやと読み進めた。問題は第四章である。
合宿1日目は換気と寒波のおかげでバカみたいな寒さに覆われていた。考えてみるとあの時の室内の温度は氷点下であったに違いない。それから私の心を蝕んだのは会話相手がいないことであった。
実は私は死ぬほど独り言が多く、それも限りなく森見調に近いと言えよう。今の口調を少しフランクにして一人称は俺にした感じだ。
考えてみるが良い。400人以上いる生徒同士は冷蔵庫の中で会話を禁じられ黙々と勉強を進めるのである。当然、独り言は倍増え、孤独が私の心を蝕んだ。
四畳半ではないにせよ取り巻く状況は「私」と酷似していた。妙な共感を呼び、壊れかけていた心がたまごボーロのようにボロボロと粉となって崩れていく。
嗚呼私には小津のような親友もいない。そしてこの一種の四畳半から抜け出すにはまだまだ時があるではないか……
結果、四畳半神話体系は私にカスピ海ほどの大きさのトラウマを突き刺したのである。
嫌いになったのか?そう野暮な質問をするでない。
だったら何故このようなエセ森見調の文章を書いているのか。何故こんな時期にアニメを見始めてしまったのか。
間違いなく四畳半に私は惹かれてしまったからである。
——ただ、彼処で読まなければ、純粋に作品を楽しめたかと思うと。自分に反吐が出る気分である。
さてここからはマトモな書評。いやーよかったですねぇ。もうめちゃくちゃに面白かった。太陽の塔、夜は短し歩けよ乙女、ペンギンハイウェイ、夜行、熱帯、有頂天家族……と色々森見作品には手を出していたんですけど。なぜか代表作には手を出していなかった。(理由は簡単。ヒント:図書室)
冴えない京大生の私(京大生に冴えないも何もあるかッ)と黒髪の乙女(ここでは明石さんが当たりそう)の組み合わせ。これぞ森見作品ですよね。
ただ違うこと、といえばその特殊な作品の構造でしょうか。パラレルワールドとして語られる幾つかの章。
途中で本の背みて気づいたんですよね。
それから軸としてあるのは親友、小津の存在。裏ヒロイン小津っていうのが腑に落ちますね〜。考えてみるとなかなかアツい友情ですよ。羨ましい。
だからこそあのラストが映えるんですねぇ。『僕なりの愛ですよ』うんうん。
憎らしいほど楽しい青春が詰まった作品です。確かに馬鹿らしいんだけどラストはうるっとくるものがある。これは森見先生以外には描けない世界観ですからね。気になってる!って人はもう森見沼にズブズブハマってくれれば嬉しいです。
それから普通に京都行きたくなりました!京大は行きたいとか思えないけど!吉田寮の外観だけでも眺めてみたいなぁ。
いつか聖地巡礼一人旅をしなくては!(魚肉ハンバーグとカステラを片手に!)
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