君と桜と嘘のこと

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飯田(いいだ)君? 飯田君は本当に正直者だと思います。この前だって、遅刻したのに言い訳もしないし、寝坊だって自分から言ったんですよ」 「そうそう。中間試験で誤回答なのに採点ミスで丸になってて。そのままにしておけばいいのに、正直に先生のところへ訂正しに行くのを見た時は驚いたな。俺だったら黙ってる。結局飯田、そのせいで再試だったんだよ」 「けど誠実っていうか、嘘をつかないのは信頼できるよね。だから、学級委員には向いてると思います」  放課後の掃除の時間、机をすべて後ろに押しのけ、教室の前半分になったスペースで、中野がふさげて黒板消しをマイク代わりに、インタビュー風に尋ねると、手持ち無沙汰にほうきの柄に顎を載せたり、雑巾を片手で振り回したりしながら、クラスメイトたちが口々に答える。中野が、いたずらっぽい顔でこちらに向かって、白い粉をパンパンやりながら向かってくる。 「だってよ、飯田君」 「やめてくれよ。中野は部活行かなくていいのかよ」  サッカー部の練習がもうすぐ始まる時刻だ。  僕は必要以上に窓の縁を丁寧に雑巾で拭くふりをしながら、懸命に顔を背けていた。    透明に澄みきった、どこまでも高い秋の青い空をバックに、コントラストの鮮やかなライムイエローのユニフォームをだらしなく羽織るようにした中野が「やべ、遅刻」と言いながら教室を出ていく。
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