君と桜と嘘のこと

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 掃除を終え、日誌を職員室へ提出してから教室へ戻ると、クラスメイトの森下さんが腰掛けていた。切れ長の目でつんとした印象だが、肩についた茶色の髪は、九月の午後の風に柔かくそよいでいる。  クラスの集まりにもほとんど顔を出さないから、森下さんとはほとんど話したことがないし、他の女子とつるんでいるところを見かけたこともない。けれどたった一つ、丘の上の豪邸に住んでいるということだけはみんなが知っていた。  うっすらと赤く染まり始めた外の世界から、溌剌(はつらつ)とした声が飛び交うのが聞こえる。サッカー部の練習だ。  こちらを振り返った森下さんと一瞬目が合ったところで、廊下の方に気を取られる。何やら騒いでいるらしい。    教室を出てみると、隣のクラスの(あずま)とその数名が、メガネをかけた男子を囲んでいる。詳しくは知らないが、東を中心としたたちの悪いグループによるいじめが隣のクラスでは横行していると聞いたことがある。囲まれたその彼は明らかに震えている。  止めに入ろうと、僕の体は自然に動いていた。 「おい、やめろよ」 「なんだよ」  妙に筋肉質な東の腕が振り上がり、囲った彼への攻撃をやめないので、次の瞬間、思わず僕は東を突き飛ばしていた。 「いって」  東は大げさに倒れてみせると、もう一度「いってええ」と声を上げる。  囲われていた当の彼はここぞとばかりに起き上がると、足をもつらせながら逃げていく。  僕は東とともに、駆けつけた担任の島田先生に職員室へ連れていかれた。
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