君と桜と嘘のこと

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「最初に手を上げたのはどっちだ」  理由はどうあれ、東を最初に突き飛ばしたのは紛れもなく僕だ。 「先生……」  言いかけると 「あ、森下」  島田先生が僕の背後を見やる。職員室へ入ってきたのは森下さんだった。 「森下、お前見てたよな」  森下さんは一瞬口をすぼめて目をきょろっとさせてから、僕を品定めするように下から上まで見ると 「いえ。私は何も見てませんよ」  ケロッとした顔で言う。 「おい」  東が反動的に声を上げるが、森下さんが東の方へ顔を向けると、何かを悟ったようにうつむく。 「殴ったのは僕からです。僕なんです」  僕は正直に話す。  島田先生は眉毛を指でかきながら、ため息をつき困ったような顔をする。 「先生、全国模試の前ですよね。今揉め事が起こったら困ると思います。この通り、東はどこも怪我してないですよ。もう解放してください」  こちらの様子を伺うように向かいの席から視線を送る学年主任に遠慮したのか、森下さんの言葉に、島田先生は続ける。 「ああ、もういい。わかったわかった。お願いだから、騒ぎを起こさないでくれよ。もう三年なんだから。受験に集中してくれ」
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